日本粘土学会 会長からのご挨拶

北海道大学大学院工学院 環境循環システム部門 佐藤 努

2024年9月4日の総会にて、2025・2026年度の会長を拝命いたしました。会長就任にあたり、会員あるいは会員以外の粘土および粘土鉱物にご関心の皆様にご挨拶させていただきます。

私にとりまして、1985年10月に岡山理科大で開催された第29回粘土科学討論会に参加させていただいたのが、粘土学会とのお付き合いの始まりでした。以来、おそらく、オーストラリアに赴任中であった1997年の福井県立大学と、暴風雨で現地に赴く事の出来なかった2013年の高知市で開催された粘土科学討論会以外は全て出席してまいりました。また、2007年には北海道大学で第51回粘土科学討論会を開催させていただきました。学生会員あるいは正会員として粘土科学討論会に参加・発表するだけでなく、常務委員、評議員、常務委員長、理事として運営にも携わらせていただきました。研究活動の中で様々な学会に会員として所属させていただきましたが、こんなに深くお付き合いさせていただいた学会は他にはございません。この間、様々な学会活動を通して、諸先生方をはじめとして、先輩・後輩、仲間の皆様にご指導いただき成長させていただきましたこと、この場を借りて深く御礼申し上げたいと思います。

さて、本会は、1958年創立の粘土研究会が発展する形で1963年に創立された歴史ある学会で、2015年には一般社団法人となりました。本会の設立にご尽力され日本の粘土鉱物学の父とも称される須藤俊男先生は、終戦後に諸外国で生まれていた粘土鉱物の研究組織を日本にも設立する必要があると考えて、日本学術会議の地質学・古生物学研究連絡委員会の中に「粘土鉱物小委員会」の設置を提案しその世話人となられたそうです(生沼,2002)。その提案の趣意の素晴らしさは、日本でも同じものを作ろうという簡単な考えでなく、異分野相互間の連絡・交流を重視し、「粘土科学」という広い枠で活動したいというものであったそうです。その証拠に、その小委員会には地質学、鉱物学、窯業、化学、土壌学、土質学、石油工学の分野より35名の参加があったそうです(江川,1986)。当時の日本学術会議では、異例の小委員会であったであろう事は想像に難くありません。私は、末席を汚す身かもしれませんが、須藤先生の孫弟子として、その意志を引き継ぎたいと考えております。

私が粘土科学討論会に参加し始めたころは、地質学、鉱物学はもちろんのこと、窯業、土壌学、土質学、石油工学の発表がたくさんありました。また、それらの分野からも会長が選任されていました。他分野からの発表に刺激を受けて、かくいう私も、自身の研究展開のアイデアに繋がったものもありました。学問や産業の変遷のために許容しなければならない事もあるかもしれませんが、農業や土木分野では未だに粘土の研究が盛んにおこなわれていますし、その基本的な理解が求められています。また、現在多くの研究発表が行われている化学や材料の分野でも、粘土および粘土鉱物を主たる研究対象としていても、粘土科学討論会には参加されていない方々がたくさんおられます。粘土科学討論会のシンポジウムや提案型セッション、研究グループ、そして若手の会を通して、もう一度「粘土科学の輪」を大きくし、そのような研究者・技術者の方々の拠り所となる学会にできればと考えております。さらには、2028年札幌で開催予定のアジア粘土会議や近い将来開催が期待されている国際粘土会議を通して、その大きな輪を世界にも広げてまいりたいと考えております。もちろんそのような活動は、会員の皆様のご理解とご協力無しには進められません。引き続きご支援、ご協力を賜りますようよろしくお願いいたします。

江川友治(1986)日本粘土学会の創立― 歴史的展望―、粘土科学、26、306-314.
生沼郁(2002)須藤先生と日本粘土学会の足跡と将来、粘土科学、41、135-138.